胡蝶の夢
夢幻の白夜考察サイト
<『白夜』という名前>
「白夜」とは本来、真夜中になっても薄明になっているか、または太陽が沈まない現象のことであり(ウィキペディアから引用)、極地とその周辺地域でのみ観測される気象現象の呼称(名前)である。「白夜」という名は、二重の意味を内包しているように思われる。
一つ目が、彼が「この世界の外側の存在」であるということだ。「白夜」という名は、舞台が「戦国時代の日本」であることを考えると、非常に不自然な名前である。戦国時代の日本(だけでなく現代日本でもそうだが)において、「白夜」は存在しないからである。つまり、本来ならば「存在しない名前」なのだ。ではどうして「戦国時代の日本に存在しないもの」の名前を彼が冠しているのだろうか?
固有名詞=名前とは本来、その存在が具体的に確認され、人々に意識されていることが前提なので、確認されていなかったり、意識されていなければ、固有名詞は生成されない。「白夜」という名前は、その現象が日本では確認されない=存在しない名前である点において、奇異である。
「白夜」という現象が日本(犬夜叉の世界)において、本来存在していないことを考え合わせれば、白夜はその名前の如く、この世界には存在しない、或いは「見えない存在」とも捉えられる。
彼が「白夜」という名を冠している理由、それは彼が戦国時代の日本、つまり「犬夜叉の世界」の外に存在する「メタな存在」であることを、高橋氏が示したかったからに他ならない。時代や文化を飛び越えた、超自然的な存在。「白夜」という名は、高橋氏が時代考証等を無視して、敢えて“確信犯的”に名付けた名前だとしか考えられないのである。
次に考えられるのは、この名前が、四魂の玉との共通項で結ばれているのではないか、ということである。白夜とはつまり、昼のように明るい夜のことである。闇のない夜。このように、両方の属性を併せ持つ白夜という名前の属性と、四魂の玉の善でもあり、悪でもあるという属性は、類似しており、白夜の性格とも共振しているようだ。白夜と四魂の玉。この二つに共通する性格と属性上の類似は、同じ磁場のうちで共振しているようにも感じられるのである。このように考えてみると、同じく四魂の玉の要請で誕生し、物語上対となる「かごめ」の名前が、四魂の玉に由来するのも興味深いのである。(完結編16話を参照)。
そしてもう一つ興味深いのは、「かごめ」と「白夜」の名前をめぐる奇妙な符号だろう。「かごめ」のフルネームは、「日暮(ひぐらし)かごめ」である。日暮とは本来、日暮れのことをさす。つまり夕刻のことだ。黄昏時とも呼ばれるこの時間には、古来より特別な意味を与えられてきた。昼から夜へと移行する、曖昧な時刻。それは不安や怖れをも想起させると同時に、一日の終わり、時刻の境界を示しているのだ。「日暮」という言葉は、「現代」と「戦国時代」という、二つの世界の境界線を飛び越える彼女には、相応しい名前と言えよう。
翻って白夜とは、昼のような夜、沈まぬ太陽に支配された夜のことである。「日暮」と「白夜」、この二人の名前は、どちらも気象現象と時刻にかかわる名前であり、「昼から夜へ移る時間」と「闇のない夜」は移行と対立を同時に表現しているように見える。それはまた、日が沈む・日が昇るとも言い換えられよう。この対立は、偶然なのであろうか。私は、このふたりの名前の対立に、ある種の蓋然性が高いのではないかと思われる。
白夜はまた「夢幻の白夜」という形容詞的な通り名がついている。これは原作においての最終決戦が近づくにつれて頻度を増す。白夜とだけ呼べばわかるにもかかわらず「夢幻の」とつけたのには、白夜が、戦国の世界の住人ではなく、異世界の者であることを示唆したかったからなのではないか、とも思われる。