胡蝶の夢
夢幻の白夜考察サイト
<白夜への疑念、『奈落』の崩壊>
奈落が神無~赤子らに抱いたものは、「裏切るか、裏切らないか?」という疑念。神楽や神無は、肉体も精神も飽くまで「他人」。だから心臓は自分が握れるし、裏切ったところで所詮は他人だから「当然の結果」だと割り切れた。心臓である赤子は「自分の自律神経」である。自分の自律神経にまで裏切られてしまったら、とうとう信じられるものが「自分自身」、それもより、内面的なものしかいなくなる。
「自分は自分を決して裏切らない」―最終的に自分しか信じられるものがなくなった奈落にとって、白夜は前述の疑念を消す、最後の砦だったはずだ。ところが「奈落自身」であるはずの白夜は、奈落とは心を共有出来ない。再び例の疑念が奈落の頭をよぎる。寧ろ、それを通り越して、新たな疑念が生まれたと考えられる。
―「いったいお前は誰なんだ?」―
奈落としては解せなかったろう。自分であるはずの相手の心が自分ではないのだから。肉体の感覚が完璧に繋がっているが故に、却って恐怖すら覚えたに違いない。それでも白夜は唯々諾々と奈落に従う。神無のように心がないわけではないというのに(哀れにも奈落はそう信じきっていた)。こんなものは「自分」じゃない。人を疑い、裏切り続けてきた「自分」とはあまりにかけ離れている(なにせ自律神経ですら、例外ではなかったのだから!)。
「他人は自分を必ず裏切ること」を信じて疑わない奈落にとって、白夜が無条件に従い続けることは、彼の想像の範疇を超えている。白夜が自分に従い続ける理由が、行動理念が、分からない。自分が自分でなくなる恐怖。裏切らない「仲間」を欲していたはずなのに、いつの間にか裏切ることを期待している自分がいる。白夜が裏切ることで、この疑心暗鬼の時間に早く終止符を打ちたい。「自分の鏡像」まで疑ってしまったら、ただでさえ鬼蜘蛛を全否定し続けたために、不安定な奈落のアイデンティティーは、いとも容易く崩壊してしまう。