胡蝶の夢
夢幻の白夜考察サイト
<くい違う心>
このように、「臭い」・「視覚」・「色彩設計」の観点から考察してみると、奈落と白夜は肉体を共有するとも言えるほど同一の存在であることが判明する。奈落は様々な分身を作り出した後に、ようやく文字通り自分の分身をつくりだすことに成功したというわけだ。彼が白夜に(少なくとも神楽よりは)信頼を寄せていたのもうなづける。
しかし、これだけで単純に「白夜は奈落と一心同体である」と、この問題を結論付けることはできない。
先述したとおり、「身体」は一心同体であることはわかった。では「心」はどうだろうか。白夜はしばしば、「奈落の考えはわからない」と言っている。
42-5 91 奈落の狙いを弥勒に問い詰められる
弥勒「竜鱗の鉄砕牙で一瞬に斬り捨てられる妖怪…そんな生ぬるい相手を、なぜ奈落はさしむけてきた?」
白夜「さあねえ。奈落の考えてることはおれにはさっぱりわからない」
42-7 123 再度奈落の思惑を弥勒に問われる
弥勒「白夜、おまえは…犬夜叉なら二枯仙を一瞬に斬り捨てられると言っていたな。そして実際、そのとおりになった。つまり奈落は、犬夜叉が竜鱗の鉄砕牙を使いこなす手助けをしたということだ。やつはいったいなにを企んでいる!?」
白夜「さあな…親切心じゃないのか?」
55-6 109 冥道残月破の妖力を写し取るところを七宝に目撃される
七宝「お、おまえ今…なにをしたんじゃっ!」
白夜「見てただろう?冥道残月破の妖力をいただいたのさ。奈落がそうしろって言うから」
七宝「妖力を!?デタラメぬかすなっ!冥道残月破は殺生丸と犬夜叉が苦労してつかんだ技じゃぞ!それをそんな簡単に…」
白夜(だから…この刀は一度しか使えないのさ。奈落がこれをどう使うつもりかは知らないが…そろそろ決着ってことか…)
42巻では、目的を口外せぬよう適当な言葉ではぐらかしているだけとも取れるが、55巻のシーンではモノローグで奈落の意図を「知らない」と発言している。
メタな言い方になるが、フィクションの登場人物は、読者に対して心の中までは嘘をつけない。
つまり、彼には奈落の考えは「本当にわからない」のである。その上「奈落がそうしろって言うから」という発言は、言い換えれば彼は「奈落の命令なしでは動けない」ということではないのか。また、彼は奈落と知識や記憶の共有もできていないようだ。
48-9 161 犬夜叉が妖怪化する
白夜「どうなってんだ犬夜叉のツラ…まるで妖怪だ」
彼が神無戦で犬夜叉の妖怪化を目撃する場面だ。
視覚の項目で先述したとおり、奈落はこの時を待っていたとばかりに反応し、神無に竜鱗の鉄砕牙を使うよう指示を出す。一方で白夜は、明らかに初見の反応を示している。彼が「犬夜叉の妖怪化」について何も聞かされていないことが、このシーンで窺える。
奈落が曲霊を解放するシーンと、曲霊の行方を奈落に問うシーンでも同様のことが言える。
52-5 88 曲霊が実体化する
白夜「奈落、ありゃ新しい分身かなんかかい?」
奈落「白夜か…見ていただろう。あれは、四魂の玉の中から出てきた。永年玉に封じこめられていた妖怪どもの邪念だ」
53-1 22 白夜が曲霊の行方を奈落に問う
白夜「なあ奈落、あいつ戻って来ないぞ」
奈落「曲霊(やつ)に貸したわしの体はすべて死んだ」
白夜「それじゃ曲霊とかいうそいつも?」
奈落「あれは死なん。そして…これから曲霊がなにをしようとしているか、わしには想像がつく…」
もし白夜が奈落と「一心同体の鏡像」ならば、曲霊について何も問う必要はないはず。しかし、実際の彼は奈落に訊いている。本当にわからないから訊いているのだとしか考えられない。
このように考えていくと、白夜は奈落とは明らかに記憶や思考を共有できていない。白夜は肉体的には奈落と同じなのに、精神的にはまったく別のアイデンティティーを有してしまっている。
これらの点は非常に不自然なことで、奈落が他人に対する究極の不信故に「もう一人の自分」、「鏡像」として白夜を生み出したのならば、当然白夜は「奈落自身」なのだから、わざわざ奈落が口で命令せずとも、白夜は奈落の意図を理解し、彼の望むとおりに動くはずだ。
自分と頭の中を共有できる分身をつくった方が効率的だし、目的に対しあくまで合理的に行動してきた彼ならば、ためらいなくそうするだろう。しかし実際には、55巻のシーンのとおり、白夜は奈落の命令なしでは動けないし、知識や感情を共有できない。
あえてそうしたとは考えにくい。他人に裏切られ続けた奈落が、今更他人をつくる理由がないからだ。むしろできなかったのではないだろうか。
奈落が白夜の「鏡像」ならば、完全に同一のアイデンティティーであっても良さそうなのに、別のアイデンティティーを有するのには、なにか特別な、なにか決定的な、意味が隠されているのではないだろうか。