胡蝶の夢
夢幻の白夜考察サイト
<白夜の声>
アニメ版の白夜の声は真殿光昭氏が担当したが、役作りには相当苦労されたことだろう。なにせ読者から見ても「よく分からないキャラクター」である。「よく分からないキャラクター」を、どうキャラクター付けして、演じれば良いのか。その上、犬夜叉役の山口勝平氏を始めとする周りの大御所声優たちは皆、旧アニメ版で自身の役の演技の勝手を知っている。
自分の第一声で全ての印象が決まってしまう。相当なプレッシャーだったに違いない。
2008年7月~2010年3月に全国各地で開催された高橋留美子展で、「犬夜叉完結編」放送決定に先駆けて放映された「黒い鉄砕牙」と、「犬夜叉完結編15話」は同じ内容(演出等は大幅に異なる)だが、真殿氏の演技の変化が見て取れる。「犬夜叉完結編15話」では白夜の台詞のテンションが“良い意味で”「フラット」になり、口調もより「フランクかつカジュアル」になっている。恐らく真殿氏も同じことを考えていたのだろう。白夜には感情の起伏がないということを。
真殿氏が演じる白夜は、口調が原作よりも砕けており、声質も軽くて、明るく感じられる。これらの要素は、本来、キャラクターに対する親しみやすさにも通じるはずだ。しかし、それに反して、発声時のテンションは常に低く抑えられており、一種気だるげな印象をも抱かせる。「陽気な声色」と「低いテンションの語り口」。これら二つの要素は、一言で言えば、ちぐはぐな印象を作りだしている。この一見背反するようなギャップが、かえって人間的な心の温もりや、湿り気を一切感じさせないことに成功させている。それは白夜というキャラクターの持つ、人間らしくない、或いは感情の欠落した性質を巧みに表現している。白夜の、人間的な情動や激情とは無縁で、非人間的ともいえる無機質さを表そうとするとき、軽さと共にある冷徹さを秘めた声色は、白夜の本質を的確に表現している。端的に言うならば、良い意味で「嘘くさい」のだ。白夜の持つ「本質的なアパシー」が、非常に的確に表現されていたように感じた。
また原作のイメージを強く持っていた読者は、アニメ版白夜の声に違和感を持った人も多くいたらしい。それは理解は出来る。原作の白夜は非常に女性的な容姿をしており、その相貌から、女性声優か、声質の高い男性声優が演じると予想した読者が多かったのだろう。現に七人隊の蛇骨を、女性声優の折笠愛氏が演じた前例がある。
では何故、アニメ版の白夜の声は「男性的」なのだろうか?
私には、奈落役の森川智之氏と並んだときの「声質のコントラストの強さ」、上記の物語の構造上、どうしても「男性」と明確にする必要がある、というアニメスタッフの意思が強く感じられた。白夜は物語の構造上、「男」であらねばならない。そうでなければ、物語全体の関係性や構造が崩れてしまう。白夜が「女」だと、奈落と白夜で男女関係(これは近親相姦的な意味合いをも含む)が出来てしまい、奈落の桔梗に対する一方的な執着から生じる関係性の意味が薄れてしまうからだ。
森川氏の陰湿で暗い奈落の声と、真殿氏が演じるあっけらかんとした白夜の声。このコントラストが非常に小気味よかった。
キャラクターの設定がこれほど困難と思われる夢幻の白夜を、明確に設定付けて表現したというのは、真殿氏の力量をおいて、他に到達しえなかったのではないだろうか。