胡蝶の夢
夢幻の白夜考察サイト
<白夜のにおい>
白夜が奈落の鏡像だと考えられる根拠のひとつに、「臭い(匂い)」の問題がある。
半妖の犬夜叉は犬妖怪の特徴を備えているので、嗅覚が非常に優れている。
この能力により臭い(匂い)で個人を特定することはおろか、風の臭い(匂い)から遠方の状況を把握することもできる。
実際、犬夜叉の物語は臭い(匂い)を手がかりに追跡劇が繰り返されている。その証拠に、奈落を追う主な三つの勢力は「嗅覚が優れた者」を中心にして構成されている。犬夜叉・殺生丸・鋼牙の三名がそれに該当する。
何かを追跡したり、発見したりできるのは、彼らがそれぞれの臭い(匂い)を嗅ぎ分けられるからであり、それなしでは物語を進められない。
では、実際に白夜の登場シーンでは彼の臭いについて、犬夜叉たちはどのように語っているのだろうか。犬夜叉や殺生丸が彼と出会うとき、どのように臭いを嗅ぎ分けているのかを見てみよう。
以下は白夜が登場した(あるいはかかわった)際、彼の臭いについて言及があった部分のみを抜粋したものである。
40-9 164-165 犬夜叉が白夜に初めて会うシーン
白夜「闘う気はねえよ」
犬夜叉「ふざけんなてめえ…奈落の分身だな!?」
かごめ・珊瑚・七宝「えっ…」
白夜「へえ。わかるのかい」
犬夜叉「体中から奈落の臭いがしてやがるぜ!」
41-3 58-61 殺生丸が白夜と初めて会うシーン
白夜「ったく…いきなり殺そうとするか?普通」
殺生丸「きさまから奈落の臭いがする。それで充分だ」
44-4 69 妖狼族の群れが惨殺された現場に犬夜叉達が駆けつけたシーン
かごめ「これは…」
犬夜叉「妖狼族の群れだ…」
弥勒「子供まで…」
珊瑚「ひどい…」
かごめ「誰が…」
犬夜叉「……」
犬夜叉(かすかだが…奈落の臭いがする!)
※次章で白夜が現場にいたことが判明する。
44-5 80 鋼牙が妖狼族の少年・灰(白夜から手渡された四魂のかけらを足に仕込んでいる)と戦うシーン
鋼牙「どおーも気にくわねえな…どういうことだ!?おまえの体から…奈落の臭いがするぜ!」
44-5 89 鋼牙が白夜と初めて会うシーン
鋼牙「むかつく臭いだぜ。てめえ…奈落の新しい分身か!」
46-8 136 殺生丸が白夜を冥道残月破で斬りつけるシーン
白夜「……で?琥珀を助けにでも来たのかい?そんなガラに見えないけどな」
殺生丸「気にくわん臭いがしたので斬りに来た。それだけだ」
三者共に、白夜を「奈落と同じ臭い」と評している。
初見のときは白夜の臭いを知らないのだから、奈落の臭いから彼が奈落の分身であることを見抜くのは極めて自然な流れだし、奈落と勘違いしても仕方がない。しかし、二回目三回目となっても、相変わらず犬夜叉たちは奈落の臭いがすると言っている。
奇妙なことに、犬夜叉たちは白夜の臭いを特定できていない。それが決定的に判明するのが以下のシーンだ。
51-1 31 鉄砕牙に変化した天生牙を目撃した犬夜叉
犬夜叉「殺生丸てめえ…奈落に魂を売りやがったのか!?」
殺生丸「……」
かごめ「…どういうこと!?」
琥珀「殺生丸さま…」
犬夜叉「おまえの刀から…奈落の臭いがするぜ!」
白夜「悪い。そりゃおれの臭いだ」
犬夜叉「!」
このシーンで犬夜叉は、殺生丸が天生牙にまとわせている、鏡の妖の破片の臭いに反応している。鏡の破片は白夜が殺生丸に手渡したものなので(51巻)、当然白夜の臭いが付着している。
しかし、犬夜叉は「白夜の臭い」とは言わずに「奈落の臭い」と断定してしまっている。その直後、白夜に否定されて
動揺を見せたのは、鼻の良さを自負している彼にとって、このことが完全な不覚だったからであろう。
51巻のこのシーンはとても印象的で、白夜自身が自分の臭いが奈落のそれだと認めている。
これはつまり、臭いだけでとれば白夜=奈落とも言えるのである。
もし白夜が、他の分身と同じように固有の存在として生まれたとするならば、当然固有の臭いを持っているはずだ。
けれどもただの一度として、犬夜叉たちは白夜をその固有の臭いで認めたことはない。これは臭い(匂い)を頼りに追跡している犬夜叉の物語において、非常に不自然なことである。
「白夜の臭い」があるとしたら早い時点でその言及があるべきなのに、それがない。
このことはアニメ『犬夜叉 完結編』において、さらに強められているようだ。
アニメ版では原作にはない、犬夜叉のモノローグが挿入されている。臭いを巡って補足的にそれが挿入されているのは、以下のシーンである。
犬夜叉完結編10話18:34-18:58 犬夜叉達が湖に向かうシーン※2
七宝「めずらしいのう犬夜叉」
犬夜叉「なにが?」
七宝「いつもならこーゆーよくわからん人助けには、真っ先に反対するではないか」
犬夜叉「ああ!?文句言ってほしいのか!?」
かごめ「なにかしてないと不安なのよ。みんな同じでしょ」
犬夜叉「誰が不安だ。おれは不安じゃねえっ」
かごめ「はいはいそうね」
犬夜叉(それに…かすかだがこの臭い…奈落の臭いに間違いねえ!)
この後、湖にたどり着いた犬夜叉一行は神無と出会うが、そこに奈落はいない。
「奈落の臭い」に導かれて来たが、「無の分身」たる神無に臭い(匂い)はなく、彼女らの傍に侍らせている最命勝が奈落の臭いと評されたことは一度もない。
このように消去法で考えていくと、犬夜叉の嗅いだ「奈落の臭い」は神無に伝言した白夜しか該当者がいなくなる。
48-7 120-121
神無 (風…神楽…?)
白夜「よお神無」
白夜「奈落からの伝言だ。犬夜叉たちの所に行って─鏡を開放しろ─…だとさ」
―「奈落の臭い」―
それは、先程までそこにいた白夜の残り香の事だったのだ。
犬夜叉のモノローグは、アニメ版で新たに付け加えられたものである。奈落の臭いがすることを強調したわけだが、なぜだろうか。
本来犬夜叉は、七宝の言うとおり「よくわからん人助け」を億劫がる。
だが、その犬夜叉が真っ先に現場へと駆けつけた。臭い(匂い)から、奈落が関わっていると判断したからだ。
奈落となっては、流石の犬夜叉も黙ってはいられない。例のモノローグを挿入したことにより、原作には描かれなかった犬夜叉の動機が明らかにされている。
以上のことを総合して考えてみると、白夜は固有の臭いを持たず「奈落と完全に同じ臭い」をもつと考えられる。
これは、奈落と白夜が同一の人物である一つの証拠になるのではないだろうか。
奈落と白夜が同一の臭いだとすると、最終決戦でのあるシーンにおける違和感にも説明が付く。
54-10 178-181 白夜が不意を突いてかごめを斬るシーン
かごめ「!」
犬夜叉「夢幻の白夜!?」
何の予兆もなく、白夜がかごめの真後ろに現れるのだ。奇妙なことに、この時犬夜叉とかごめは白夜の接近にまったく気付けていない。
犬夜叉の鼻は優秀だ。「奈落の体内」という異常な環境下においても、弥勒の匂いを嗅ぎ分けている。殺生丸もまた、りんと犬夜叉の匂いを嗅ぎ分けている。
54-8 146
かごめ「あ…りんちゃ…」
殺生丸「幻だ」
殺生丸(まったく匂いがしない…くだらん…からかってでもいるつもりか…)
このシーンでは、かごめが見たりんを、匂いがしない特徴から一瞬で看破している。
54-9 150-151
殺生丸「近い」
かごめ「え…りんちゃんの匂い…?」
殺生丸「とばすぞ」
かごめ「きゃっ!!ちょっと!りんちゃん危ないの!?」
殺生丸「犬夜叉もそばにいる。やつは妖怪化したままだ」
55-2 29
殺生丸(わかる…りんの匂いが、霧が取り払われたように…かごめの霊力…とやらが、奈落の邪気を払っているのか!?)
55-3 55
犬夜叉「こっちだ!近いぜ!弥勒の匂いだ!」
かごめ「本物の四魂の玉からはどんどん離れている…」
にもかかわらず、白夜の存在にはまったく気付けなかった。
実はこの現象は、これが初めてではない。似たような状況が25巻で先に展開されている。寺の坊主に扮した七人隊の煉骨が、犬夜叉に正体を明かすシーンだ。
25-5 83-85
煉骨「くくく…おれは七人隊の煉骨…」
犬夜叉「てめえ…」
犬夜叉(さっきの坊主…どういうことだ!?こいつからは生きた人間の臭いが…)
煉骨「どうした犬夜叉。不思議そうなツラしてるじゃねえか。そうか、おまえは鼻が利くんだもんなあ。おれの体から、七人隊の死人と墓土の臭いはしなかったか?」
犬夜叉(…そうか!ちくしょう…この場所が…)
煉骨「くくく…寺を乗っとった甲斐があったようだな。なにしろまわりは墓土だらけだ。おれの臭いなんざまぎれちまう。そこに、生きていた坊主の衣をまとったのよ。なまじ鼻がいいばっかりに、おまえはそれを嗅ぎつけて安心しちまったってわけだ」
実は、犬夜叉の鼻には弱点がある。
「対象の臭い(匂い)がその場の臭い(匂い)と同化していると、その存在に気付けない」のだ。
この場合、煉骨の臭いが元々寺に存在していた死者や墓土の臭いと同化していたために、犬夜叉は七人隊特有の「死人と墓土の臭い」を嗅ぎ分けられず、「生きていた坊主の衣の臭い」から彼を「生きた人間」だと錯覚してしまった。
白夜にも同様のことが言える。
今までなら「奈落の臭い」で気付けたが、最終決戦は「奈落の体内」で行われている。彼が奈落と同じ臭いをもつならば、当然「奈落の体内の臭い」と同化してしまう。犬夜叉が気付けなかったのは当然だろう。
「白夜が何者であるか」を掴む最初の手がかりは、この「臭い(匂い)」の問題だった。
犬夜叉の各キャラクターたちは皆、臭い(匂い)でアイデンティファイ(身元が明らかな状態に)される。「犬夜叉の世界」における「臭い(匂い)」は、いわば「個人を特定するID」だ。それは奈落の肉体から生まれた分身たちや、曲霊のように実体を持たない者も例外ではない。
例えば、神楽は犬夜叉と殺生丸に初めて会ったとき「奈落と同じ臭い」がする特徴から、奈落の分身であることがあばかれた。
15-6 103-104
犬夜叉「言っとくがなあ。てめえには容赦しねえぞ。おれに妖狼族殺しの濡れ衣をきせて、そこのバカをけしかけたやり口も気にいらねえが…なによりもてめえの体中から…奈落と同じ臭いがする!」
17-5 88-89
殺生丸「女か…覚えのある臭いだ。以前私を陥れようとした…奈落…とかいうくわせ者と同じ…」
しかし神楽は、奈落とは別の「固有の臭い(匂い)」をしっかりと持っていた。
現に彼女の最期における重要点は、「神楽の匂い」がアイデンティファイされていることである。彼女固有の「匂い」が奈落とは別に存在していたことによって、殺生丸が彼女を看取るためだけに駆けつけてくれたことが判明したからだ。同シーンで犬夜叉もまた、「神楽の血の匂い」から彼女の危機を察している。
38-5 91-92
犬夜叉「いやな風だぜ。この臭い…かすかだが…奈落の瘴気と…神楽の血…」
38-6 104
神楽(殺生…丸…?)
殺生丸「奈落の瘴気の臭いを追ってきた」
神楽「ふっ…がっかりしたかい。奈落じゃなくてよ」
殺生丸「……おまえだとわかっていた」
神楽「そう…か…」
神楽(わかっていて…来てくれたのか…)
このことから犬夜叉たちにとって、飽くまで「奈落の臭い」と「神楽の匂い」は別物であることが明らかになっている。
無双も同様だ。奈落の“つなぎ”たる無双は、他の分身と比べて奈落との結びつきが極めて強い。しかし、初登場の21巻では「奈落の臭い」と評された彼も、次の22巻ではしっかりとアイデンティファイされている。
21-10 173無双が惨殺した現場に向かうシーン
かごめたち「奈落の臭い!?」
犬夜叉「ああ、間違いねえこっちだ!」
21-10 180-181別の惨殺現場に向かうシーン
弥勒「これは…」
犬夜叉「やつの仕業だ!」
弥勒「しかし犬夜叉、殺された村人たちは…顔が…ついたままだ。さっきの野盗とやられ方が違う…」
犬夜叉「臭うんだよ。奈落の臭いが!野郎、まだこの村にいるぜ」
22-2 27無双のあとを追うシーン
かごめ「待ってよ犬夜叉。」
弥勒「なにをあせっている!?」
犬夜叉「無双の臭いがする!!」
では神無は?
「無の分身」たる彼女には、個人を特定する上で必要不可欠な「臭い(匂い)」がない。
確かに、神無は「無」の分身なので臭いも妖気も気配もない。
しかし、皆が固有の「臭い(匂い)」をもつ中では「無臭」という個性を持つことになる。臭いの欠陥が、かえって「固有のID」となる。そういう意味で神無は逆説的にアイデンティファイされている。
15-10 173神無に操られる村人達を目撃する犬夜叉たち
珊瑚「なにかに操られている…!?」
犬夜叉「違う!この村には妖怪の臭いなんてしねえ…」
しかし白夜は?
彼が「奈落の臭い」しか持ち得ない以上、いわば「奈落と同じID」を用いていることになる。
白夜は唯一、臭い(匂い)で個人を特定することが不可能な人物なのである。
そう仮定すると、なぜ殺生丸が殺意を剥き出しにして幾度も彼に斬りかかっていたのか、その理由が見えてくる。
おそらく彼は、白夜ではなく奈落だと推測して襲っていたのではないだろうか。
彼からすれば「奈落の臭い」を辿って来てみれば実は白夜でした、という肩透かしを毎回くらっていたわけである。いわばハズレくじを引かされていたようなものなのだから、たまったものではなかったろう。
「臭い(匂い)」で同一性が認められる犬夜叉の世界において、白夜が奈落と完全に同じ臭いであることは非常事態であり、彼の肉体が他の分身たちとはまったく異なる性質をもつことを示唆している。
それは、彼が群を抜いて奈落と密接した関係、ひいては奈落と完全に同じ身体をもつということだ。
対象を「臭い(匂い)」で追跡する犬夜叉たちにとって、白夜の透明性はいかばかりかであっただろうか。
※2アニメ版からの引用部分の表記は一律、(分:秒)の順とする。但し、youtubeに投稿された動画からの引用であるため、一部時間差が生じている可能性があることを、ご了承願いたい。